第3話 くちびるの恋

3story



※くちびるの気持ちになって
お読みください。

※私・・・くちびる
※この子・・・人間


「最悪!死ね!」

私は、そのリズムに合わせて
いつも通りに動いた。

そして、嫌な気持ちになった。

この子は、何か気に入らない
ことがあるたびに、
このリズムの言葉を
いつも使った。

使わないこともできるのに、
どうしてこんな心地よくない
リズムの言葉を使うんだろう。
選ぶんだろう。

私はいつも不思議に思って、
そしてどうか
この子がこんな言葉を
使わなくていいような時が
訪れますようにと

一生懸命願った。

でも、この子だって、
心地よいリズムの言葉を使うこと
だって上手なのだ。

たとえば、

お客さんに笑顔で伝える
「ありがとうございます」

とか

友達とお腹を抱えて笑うときの、
「あっはっはっはー」

とか

夜ごはんの後の
「ごちそうさま」

とか

彼に伝えている
「大好き!」

とか。

他にもいっぱいいっぱいある。

そのリズムに合わせて動くとき
あたしは楽しくて、嬉しくて、

思わず
両手をバンザイしてしまう。

そして、
がんばれがんばれその調子!
って
心の中でVサインを送るのだ。

私は
この子のそばにいつもいて、
見守っている。

どんなにダメダメでも、
未熟でも、

生まれたときから共に過ごして
いるこの子のことが

やっぱり大好きなのだ。

そして私には、
この子と同じくらい
大好きな人がいる。

そう、
あたしには大好きな彼がいる。

彼と次に会える日を考えると、
ドキドキワクワクして、
そして同時に、少し苦しい。

あたしと彼は、
好きな時間に好きな場所で
会えるわけではない。

あたしと彼が会えるのは、
この子がこの子の彼と
キスをするときだけ。

この子が決めたタイミングで、
ピタッとくっついて、
この子が決めたタイミングで、
離れるのだ。

それはとても苦しいこと。

この間のデートの時なんて、
遊園地に行ったばっかりに、
2人は遊ぶことに夢中だった。

そのせいで、
あたしと彼は時間にしてみると
5分くらいしか
会えなかったのだ。

あたしと彼は、
遊び疲れた2人が
休憩がてらに乗った
夜景のキレイな観覧車の中で

再会した。

「やっと会えたね」

「やっと会えたわ」

たったそれだけ言葉をかわすと、
すぐに終わってしまうだろう
その幸せな時間を、
お互いにかみしめた。

そしてやっぱり、
すぐにその時間は
終わってしまった。

でもあたしは、
その瞬間を楽しみに生きていると
胸をはって言えるくらい、
その時間が大好きなのだ。

それ以外にも
大好きなことは
いっぱいあることはある。

楽しいおしゃべり
オレンジのグロス
ジューシーなお肉の感触

でも、あの大好きな人との
静かで甘い時間は、

どうしてもどうしても
大好きすぎて困ってしまう。

もっといっぱい会って、
もっといっぱいくっついてね。
そしてどうか、ずっと
この彼といっしょにいてね。

もしかしたら
訪れるかもしれない、

一生会えなくなるかもしれない
別れの時のことを
考えないようにして、

あたしは心の中で、
この子に一生懸命お願いすること
しかできなかった。

-end-


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